「先生、こっち見て!」〜子どもからのメッセージ 塾も学校も、教師は同じ

私の一番の先生 その2「お前なんか教師じゃない」vol.2

第2回:私の一番の先生 その2「お前なんか教師じゃない」

「お前なんか教師じゃない」

そんな言葉を遠慮なく、しかもタイミング良く、教師に投げつけるのは、「いつも一番先生を求めている子なんだ」ということも、A君から教えられたことのひとつです。

こんな言葉を言われたら、「またあの子ね。あの子の言いそうなことだわ」と、一笑に付してしまいがちですが、実は、一般的な物差しで問題児といわれている子どもが放つ、許せない、何か理由をつけて消してしまいたいような言葉の中にこそ、教師が向き合わなければならない子どもの真の叫びがあるように思います。


その2―「投げつけられた言葉」

5月の体育の時間。午前の2時間目の授業。まだ、クラス全体の体育能力を知るための内容で、この日は、2本の大縄を同時に回し、その中を飛ぶという学習内容だった。

男女各二つのグループで、なわとびが始まった。

初めのグループを指導している時、A君が集団を離れ、体育館の周りに並べてある跳び箱やマットの間を行き来し始めた。気には留めていたものの、私はそのまま4つのグループを周り、練習のポイントを指導してから、マットの側のA君のもとへ走った。

自分の近くに私を確認すると、彼はこれ以上できないというほど私をしっかりと睨みつけて、「お前なんか教師じゃない。困ってるヤツの所へ一番に来るのが教師だろう」と私に向かって叫んだ。

「しまった。その通りだ。自分はなんて教師だ」という思いと、その叫びから伝わってくるたった5分かもしれないが、私を待っていた5分間のA君の思いが、全身の力を奪うほど私を打ちのめした。

「チャイムなったら中休みね」と、私はクラスの39人に叫んで、体育館から逃げ出すA君を追いかけた。小柄で素早い6年の男子に私が追いつくはずもない。しかし、A君は、私の姿を確認しながら逃げていた。

やっとのことで、彼の腕を捕まえ、話をしようと声をかけるが、A君はすごい力で私から逃れようとする。その時、2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。教室から子どもたちがどんどん出てくる中、私はA君を逃がすまいと必死で抱きついた。

その時、臨時放送の合図が鳴り、呼び出し放送が流れた。「丹伊田先生、お電話です。至急職員室にお戻りください」A君は私の手を解こうと、さらに力を込めて体を私にぶつけながら、「ほら、呼んでるぞ、早く行けよ」と、勝ち誇ったように言った。教室から出て来た子どもたちが、周りに輪を作り始めた。「先生、電話」一番傍で見ていた子どもが、私の肩をたたいた。「ごめん、悪いけど職員室へ行って、教頭先生に、丹伊田先生は、今、すごく大事なことしていて、手が離せないので、電話に出られないと言ってきて」そして、「みんなも20分休みだから遊んでいらっしゃい。私たち、大事な話をするんだから」と周りの子どもたちに大声で頼むように言った。

その瞬間、A君の体から、力が抜け、掴んでいた私の手も解放された。恐る恐るA君から手を話すと、私は、赤くなってひりひりする手首をさすりながら、やっとA君と向かい合った。凄い形相の中に、少しの優しさを感じられる顔で、彼は私を見ながら言った。「休み時間狙ってかけて来た電話だぞ、良いのかよ」その時のA君にとっては、精いっぱいの私への気持ちの表現だったのだろう。私は、涙が出そうになる気持ちをおさえながら、「先生はね、一番大事なことからやるの。20分休みまで待てたんだから、電話は大丈夫。よっぽど急ぎなら教頭先生が聞いてくださってるから良いの」と言って、彼と肩を並べて廊下に座り込んだ。

A君が、その気になって私と話したのは、この時が初めてだったと記憶している。二人とも疲れきって、何を話すともなく、肩を並べて教室の壁に背中を委ね、廊下にべったりと座っていたのだが、随分大事な話をしたような感覚で時間が流れた。二人とも、互いの心臓の鼓動を聞きながら、弾んだ息が収まるのを待っていたような気がする。

この時、言葉で、何か約束をしたとか、伝えたとかいうものは何もなかった。しかし、A君と私の間にあった壁が、ほんの少しだけ薄く溶け始めた事件だった。


「一番困ってるヤツの所に行くのが教師だろう」

A君のこの言葉は、わがままかもしれません。しかし、先生ならだれでもそうしたいと思っていて、現実には「一番困っている子をあと回し」にしてしまっていることが多いのです。

教師は、「どの子も40人中の一人」だからと、出来ない自分を納得させていないでしょうか。でも、それではいけない時があります。私にとって、A君とのこの時がそうでした。でも、A君は、緊急電話を断って、自分と話すことを選んだ事で、私を許してくれたのだと思います。困っている自分を5分も待たせ、できるみんなを先に指導していた私を、どんなに憎らしいと思ったことでしょう。

でも、そんな繊細なA君だからこそ、「ごめん、電話より今はあなたが大事よ」という私の行動を分かってくれたのだと思います。そして、お互いに言葉では、あやまらなかったけれど、廊下での十数分の一緒の時間の中で、許し合い、信頼関係を芽生えさせていたのだと思います。

子どもの指導は生易しいものではありません。この先も、A君と私の困難なやり取りは続きました。しかし、大きなつっかえ棒が取れたという実感があり、この日から私たちは、五分五分になったような気がしました。

プロフィール

丹伊田弓子(にいだゆみこ)先生
元川口短期大学こども学科教授
東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師

東京学芸大学・同大学院卒。東京都の公立小学校教諭として勤務し、生活科カリキュラムの制定に携わる。2012年3月、川口短期大学教授を退任。現在、東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師。日々、教職を目指す学生の指導にあたる。

「塾と学校とでは役割は異なりますが、子どもの学びという現場では、塾も学校も同じ。先生の役割も責任も同じだと私は思っています。小学校の教師として34年、その後大学教師としてたくさんの子どもたちに接してきました。その経験を通して学校の先生は子どもとどう向き合っているのかを感じていただき日々の指導の参考にしていただければと願っています。」

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