「先生、こっち見て!」〜子どもからのメッセージ 塾も学校も、教師は同じ

子どもが求めているのは「しっかり叱り、しっかり褒め、分からないことに一緒に向き合ってくれる先生」vol.7

第7回:子どもが求めているのは「しっかり叱り、しっかり褒め、分からないことに一緒に向き合ってくれる先生」

私がいつも思い出し、自分の教師像の目当てにしてきた先生がいます。中学のときの古文の先生です。卒業後、何かつながりをもっていたとか、特に印象に残る出来事があったとかいう特別なものは、何もありません。でも大好きで、古文が苦手なくせに、この国語の時間を楽しみにしていた私でした。

歌子先生の少し色黒のやせた手が、真っ白なチョークで黒板に創り出す美しい文字は、私が教師になったときも、授業で悩んだときも、なぜか記憶に蘇って来ました。

歌子先生は、学年の途中にご家庭のご事情で、お別れも満足にせずにいなくなってしまいました。同級生どうし、特に話題にすることもない短期間の出会いであり、地味な存在の先生だったのだと思います。それなのに、歌子先生の何が好きで、どこを真似したいということもはっきりしないまま、私はずっと歌子先生を目標にしていました。

それが、教職生活20年を過ぎた頃だったでしょうか。担任した6年生の子どもたちに、歌子先生がなぜ、私の目標だったのかの答えをもらったのです。


「次は専科、遅れずに教室移動できたかしら」

そんな心配をしながら、私は3時間目の始まった校内を教室へと急いだ。教室が近付くにつれて、静かではあるが子どもたちの気配を感じた。

「何かあって、教室移動が遅れたかな?」

そう思いながら教室のドアを開けると、教室移動用の手提げ袋をきちんと机の上に準備し、行儀よく席に座っている29人の姿が私の目を捉えた。

「どうしたの。もう1階の教室についてる時間でしょ!」

“何があったんだろう……”そんな不安で思わず大きな声が口をついて出た。

「先生、みんな今日はA先生の所へ行かないで、この教室で勉強するので、先生も付き合って下さい」

「どうしたの? A先生、待っていらっしゃるでしょ。そんな勝手なことは許されません。あっ、ごめん、先生聞いてないけど、A先生とそういう約束だったの?」

「違います。ストライキです」

困ったように下を向いた子。その一言に拍手する子。そして、真面目とは言えない笑い顔が2、3……。

「間違っていたらごめん。でも、専科に行きたい人がいるのにストライキ・・・に引き込んでない? それってすごくいけないと思うけど」

ここ2~3週間の様子を見て、この専科の時間に子どもたちが不満をもっていることは、私にも予想がついていた。個別に話は聞いていたものの、決定的な手立てもできないままになっていたので、まずは、「しまった」という思いが先に立った。あせった気持ちで、

「ねえ、専科に行きたいと思っている人、正直に手を挙げて。挙げにくいと思うけど、行きたい人がいてもいいでしょ? みんな、行ったからって、後で問題ないよね」

「いいよ。誰か行ってよ。来週のこと分かったら自分でやるから、聞いてきてくれたら大助かりだよ」……拍手。

「じゃあ、行く人、先生についてきて、A先生に謝って。お願いするから」

ところが、行きたいという児童はいなかった。仕方なく、この日はA教諭にお願いして、なぜストライキなのか、担任として私が子どもたちの話を聞くことにした。

こんなとき、便乗して日ごろの不平不満がとめどなく出てきてしまうと秩序が乱れるので、まずは自分の専科の授業態度がどうだったのか考える作文を書かせ、子どもたちが落ち着いた後、ストライキとまで考えた理由を話させた。

A先生には大変申し訳ないことだったが、このとき私は子どもたちの訴えから多くを学んだ。今回の事態は、たまたま子どもたちが不満を抱くような状態が、この時期に凝縮されてしまったというのがあったからで、指摘した内容は、多かれ少なかれ、私自身にもありうることだったからである。

大きくは三つあった。

ひとつ目は、「ちゃんと、叱ってくれない」ということだった。あまり意見を言わない子、子どもたちの目には“弱い”と見える子が少しのミスをすると、すごく叱る。でも、強い子、先生にでも思ったことをはっきり言うような子が同じことをしても、見過ごすというのだ。
こういうことを子どもは、ちゃんと見ている。M子は、ある弱い子に強い言葉で注意しているA先生に、「私が一緒に直すから叱らないで」とお願いしたら、さらに弱い子が叱られ、「A先生を助けるつもりだったのに、もう、いやだと思った」と、訴えた。

二つ目は、「ちゃんと褒めてくれない」ということだった。Y君は、「A先生はいつもみんなを褒めてくれるけど、みんな嬉しくないって言ってるよ。だって、頑張ってないのに、『頑張って偉いね』とか、失敗しちゃっていやだなと思ってるのに、『よくできたね』なんて言うからむかついた。この間も大成功と思って見せたのに、『ちょっと待って』って2班の方行って、後からも見てくれなくてがっかりだよ」と訴えた。

三つ目は、「教えて欲しいと思うことを、丁寧に教えてもらいたい」ということである。「何か聞きに行くと、先生の得意なことばっか話して、できないから聞きに行ったのに、あんまり教えてくれない。わかんないならさ、この次、良い方法考えてきて教えてくれてもいいんだけど。俺の質問、聞いてんのか、よくわかんない」ある男子は訴えた。

たくさんの訴えは、つまり「悪かったら、公平に、ちゃんと叱って。褒めて欲しい時に褒められたら嬉しいけど、ちゃんと見ないで、言葉だけで褒めるのはやめて。分かんないことを、もっと真剣に、一緒に考えて」という、先生に対する子どもたちの切実な声であった。


この出来事でベテランだからこその思い込みで、見過ごしてしまう子どもとの心の擦れ違いに気付いたA先生は、子どもとの信頼関係を修復するのに、それから全力を尽くしました。大変な努力だったと思います。

そして私はといえば、悲しそうに叱り、自分の事のように嬉しそうに褒め、根気良く教えてくださった歌子先生の顔が、ふと浮かびました。言葉や行動では印象の薄い、歌子先生。でも、歌子先生は、子どもたちを静かに見つめ、叱りどころ、褒めどころ、学びのつまづきをしっかり見ていてくださったのです。叱るのも褒めるのも、導くのも、それは、私たちにとって本物だったのです。だからわたしは、歌子先が、大好きだったのでしょう。

私の教師生活の後半は、子どもたちによって気付かされた歌子先生の「教師の心」を意識して、歩き始めました。 

プロフィール

丹伊田弓子(にいだゆみこ)先生
元川口短期大学こども学科教授
東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師

東京学芸大学・同大学院卒。東京都の公立小学校教諭として勤務し、生活科カリキュラムの制定に携わる。2012年3月、川口短期大学教授を退任。現在、東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師。日々、教職を目指す学生の指導にあたる。

「塾と学校とでは役割は異なりますが、子どもの学びという現場では、塾も学校も同じ。先生の役割も責任も同じだと私は思っています。小学校の教師として34年、その後大学教師としてたくさんの子どもたちに接してきました。その経験を通して学校の先生は子どもとどう向き合っているのかを感じていただき日々の指導の参考にしていただければと願っています。」

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