「先生、こっち見て!」〜子どもからのメッセージ 塾も学校も、教師は同じ

子どもの願いから生まれた授業vol.11

第11回:子どもの願いから生まれた授業

前回、生活科の誕生を通して、『教師である私たちが、「子どもが何をどんなふうにわかりたいと思っているのか」を、考えながら授業創りを進めたら、より多くの子どもたちの学びの意欲をつかむことができるのではないだろうか』という事をお話ししてきました。

今回は、そんな子どもの願いから生まれたある授業をご紹介します。子どもの学びの意欲を育てる種が、意外と身近なところにあることに気付く一助にしていただけたら嬉しいですね。


秋の日差しが心地よい、でもまだ夏の暑さの残る日でした。「サラサラ、コツコツ」と、字を書く鉛筆運びとはちょっとリズムの違う音が、書写に真剣に取り組む鉛筆の音以外、何も聞こえない教室の静寂を破りました。私は、その音のする机に足早に向かいました。
 
どの子も書写の清書用紙が汚れないようにと、注意しながら書くことに取り組んでいるのに、音の発信者である勇太くんは、清書用紙の余白に山を書き、雨を降らせ、消しゴムでその絵を消し、もう一度描いてみる……。そんな事を繰り返していて、書写は一向に進んでいませんでした

原因は、この日の書写教材にありました。

「あめふりくまのこ」という、幼児期に子どもたちがよく歌ったであろう歌の詩が、この日の書写教材でした。この詩のあめがふって、それが小川になってという最初のフレーズに、勇太くんは疑問を持ち、不思議で不思議で、書写どころではなかったのです。

「お山に雨が降ったら、本当におがわができるのかなあ。小川って、どんな小川ができるんだろう。どんなふうにできるんだろう。ちょろちょろって、ちっちゃいのかな。ほんとにほんとにできるんだったら見てみたい! やってみなくちゃわからない!」

この「やってみなくちゃわからない」は、勇太くんの口癖です。

山を描いて雨を描いて、でも、小川は、うまく描けない。疑問を持ってどうしようもなくなったときの目で、私を見つめる勇太くん。そこで、私は子どもたちに聞いてみました。

「ねえ、みんな。勇太くんの『やってみなくちゃわからない』が、始まっちゃった。“お山に雨が降ったら、小川ができるかな?”って不思議なんだって。誰かお話しできる?」

「先生、『やってみなくちゃわからない』でしょ? 勇太はやりたいんだよ! オレもやりたい」「やりたい、やりたい……」

そこで、10分の制限と、集中時間を約束し、全員書写を仕上げました。もちろん勇太くんも、新しい清書用紙に、精一杯丁寧に書きあげました。

「みんな、どこで雨を降らすの?」

「お砂場に決まってる!」

「そうなの? じゃあ、みんなで相談してね。そうそう、みんな外行くなら、アサガオの植木鉢の土、教材園に出して、植木鉢は、側に重ねといて!」

「いいよ。先生、ぼく、はだし!」

やる場所の指定もせず、やり方も、出した指示は「植木鉢の土を教材園に出して」というひとつだけ。そうして私は子どもたちの流れを観察しました。

仲良く協働的な活動で、砂場にはみるみる大きな山ができあがっていきました。隣の教材園では、砂場に入りきれなかった子どもたちが、少し小さめではありましたが、植木鉢から出された土で山を完成させていました。

「お山に雨が降りました」

全員の大合唱とともに、じょうろを使って雨降り作業が始まりました。しかし、砂場に小川はできません。

「降っても、降っても、できません」

子どもたちの歌声もだんだん元気がなくなっていきます。その時、教材園の植木鉢の土の山から、「できたできた、おがわは、ちょろちょろです。海も出来てびっしょびしょ!」と歓声があがり、砂場にいた子どもたちも、みんな教材園を囲みました。

この後は、想像通りの泥んこ遊びになったのですが、終わってから子どもたちは、くまさんに、このことを知らせる「くまさんあのね」を書くことを、私に提案してきたのです。

これはそんな「くまさんあのね」の、作品の一例です。

くまさんあのね

雨ふりくまさん、土の山とすなの山をつくって、ジョウロにみずをいれてきて、二つのお山に水をかけたら、すなのお山はお川ができなかったよ。土のお山は、お川ができたよ。

くまさん、お山に水をかけるとき、くまさんのうたをうたったよ。くまさんのお山は土のお山でしょ。そして、先生がお山にのっていいっていったから、すなのお山にのぼったよ。すなのお山は、すぐにこわれたよ。土のお山はぜんぜんこわれなかったよ。そしてすいどうで、足や手をあらったとき、つめたくて、いいきもちだったよ。

子どもが体で、土と砂の違いを確実に学んだ事が、くまさんへのお手紙から分かります。

この重要な学びの場を作ったのは、私がひとつだけ言った「植木鉢の土を空けて」という指示でした。

教師なら、「この実験をやるのに子どもが選ぶのは、砂場だろう。砂に水をかけても、吸い込んでいくだけで、小川などできない」と、予想がつきます。そこで、土の山を作る必然性を作るために、砂場の隣の教材園に植木鉢の土の始末を提案し、「比べる」と言う学びの場を保障したのです。

これは、私が初めて実践した生活科らしい授業でした。

「やってみなければわからない」と、いつも口に出して言うのは、勇太くんでした。でも、子どもは本来、「ほんとかな」「へんだな」「試してみたいな」と、常に「不思議」を心に抱いています。それを授業に載せられたとき、教師の願いである「全員が、納得し分かる授業」が、実現するのだと思います。

「くまさんあのね」には、子どもたちの楽しい思いが綴られています。「遊んだ楽しさ」も、「わかった楽しさ」も、子どもにとっては、同じなのです。教師が書いて欲しいと思うような「気づきやわかったこと」も、「裸足で遊んで嬉しかったこと」も、分け隔てなく書かれている。そういうものの中から、伝えたいことや気づいてほしいことを、どれだけその子が掴んだかを読み取るのも教師の大きな仕事です。これこそ本当の意味の評価かもしれません。

「学びたいことだったから、教師の指示がなくとも学び合えた。内からの学びとは、こういうことだよ」と、生活科の授業は、いつも私に語りかけて来たのです。

プロフィール

丹伊田弓子(にいだゆみこ)先生
元川口短期大学こども学科教授
東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師

東京学芸大学・同大学院卒。東京都の公立小学校教諭として勤務し、生活科カリキュラムの制定に携わる。2012年3月、川口短期大学教授を退任。現在、東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師。日々、教職を目指す学生の指導にあたる。

「塾と学校とでは役割は異なりますが、子どもの学びという現場では、塾も学校も同じ。先生の役割も責任も同じだと私は思っています。小学校の教師として34年、その後大学教師としてたくさんの子どもたちに接してきました。その経験を通して学校の先生は子どもとどう向き合っているのかを感じていただき日々の指導の参考にしていただければと願っています。」

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