「先生、こっち見て!」〜子どもからのメッセージ 塾も学校も、教師は同じ

出会いの演出vol.12

第12回:出会いの演出

人生には、どんな人とどのように出会ったかで、時にはその大半が、影響を受けるといった「出会い」があります。そんなに大きな「出会い」ではないにしろ、出会った人同士の関係づくりの初期において、「出会い」が大きな働きをすることは確かです。そして、「出会いの」印象を基に作られていく関係が、そのままそのあとの信頼関係の深さを決めてしまうことさえあります。

大きくとも、小さくとも、集団と指導者はその関係がより早く、より安定したものになれば、お互いに安心した気持ちで、共通の目的に向かって有効な時を過ごすことができます。ですから、どんな場合にも指導者には、「出会いを大切にする」と言う意識が必要不可欠です。

私も学級担任として新しい集団の前に立つときには、「今度のクラスとは、どんな出会い方をしようか」「こんなクラスにしたいけど、どんな顔して、何を話したら通じるかな」「不登校経験や、喧嘩の多い子が何人かいるクラスのようだけれど、話してくれるきっかけを作るには、どんな出会い方をしたらいいかな」等、いつもいろいろ悩んだものです。

今回は、そんないくつかの印象的な「出会い」を、ご紹介します。


新1年生との出会い

「元気が良くて、幼稚園の先生は大変だったよ。今度は小学校の先生だな」

「学校へ行ったら、少しは話聞いていられるようになるんじゃないの?」

こんな元気が評判の1年生たちの入学です。

なんと、私が担任することになりました。同じ学年にきょうだいがいる在学生の保護者からの情報を基に推察しても、まず「聞く、そして聴く」指導の必要な子どもたちに違いありません。
以下は、私がこの1年生たちと入学式後の教室で、担任として最初の「出会い」のシーンです。

「これは、先生の宝物。今日は皆さんの入学のお祝いに、特別に聴かせてあげたくて家から持ってきました」

三つのオルゴールをまるまるしたたくさんの真剣な目が見つめます。微笑みを返しながら、ひとつめのハッピーバースデイのオルゴールを鳴らします。

 「ワー」・・・

ため息にも似た優しい声が教室を満たします。

「今日はたくさんの1年生が生まれた日。1年生おめでとう」

「ありがとうございます」 

なぜか、オルゴールの様な優しい小さな声が、返ってきました。

二つめのオルゴールは、夏の思い出。三つ目はさんぽ。子どもたちが自然に静かになり、抱きしめたいような優しい顔になりました。

 そんな子どもたちに背を向け、こんどは、三つのオルゴールを一度に鳴らしました。

「うるさいよ!」「やめてくれ」「先生ダメでしょ!」

耳をふさいだ子どもたちは口々に叫びます。

 オルゴールを止めて子どもたちに一言。

「ひとつ一つは、こんなにきれいな音なのに、三つもなるとうるさくて良い音が一つも聞こえなかったでしょ。だから、お約束してね。1年1組のみんなは、きれいな音のするオルゴールよ。素敵なお話を一人一人ちゃんとして、お友達のお話は、一人一人ちゃんと聞いてほしいの。今日からみんなは、素敵な1年生だから、(三つのオルゴールを指して)この素敵なオルゴールの様な仲間になるよう先生は『おるごうる』(学級通信)というお手紙に、みんなのことをたくさん書こうと思います。みなさんは、このお手紙をお家に届ける郵便屋さんにもなってください」

と、学級だより『おるごうる』の1号を配りました。(足立区発行、幼少連携すくすくガイドに、掲載したもの)

「お勉強や、話し合いの時は、オルゴールが聞こえないほど、うるさくしちゃいけないよ」

そんな思いでスタートした1年生。6月には、授業前の朝読書の日に教室に行ってみると、オルゴールが静かに響く中で、かわいい29人の1年生が、静かに読書していました。読書ができる静かさを創り出すために、誰かが鳴らしたオルゴールに守られているようでした。

6年生との出会い

あまり、心の準備もできていないまま、6年生を担任することになりました。

子どもたちは、5年生で1年間一緒にやってきた学級集団です。子どもたちにとっては、いわば私だけがよそ者で、転校生を迎える様な興味津津の、状態なのです。

学級が新しくなって担任になる場合は、子どもたちとともにクラス作りをしていけるので、ヒフティー・ヒフティーの関係でのスタートです。一方、学級集団は同じで担任だけが変わる場合は、ある種の難しさがあります。教師が新しいことを提案すると、「先生、前はこうだったよ」と、必ずや今までのクラスの文化?を主張する者がいるのです。ただ、それは、ある意味望ましいことでもあります。クラスとしての集団意識が見て取れるからです。

よそ者の私は、まず、子どもたちが前担任とともに作ってきた物を尊重しなければなりません。

客観的にみて、望ましいものでなくとも、まず受け入れてから、の改革です。

4月6日、この日は始業式の後、10時から入学式。そのため、全校での始業式の後、最初にクラスの子どもたちと過ごせる時間は、校庭で30分と限られていました。それでも私は、この30分の「出会い」にこだわりたかった。

そこで、前担任から受け取った5年生までの指導要録の記録を頼りに、まずはひとり一人に短い手紙を用意しました。

「去年は、感想文コンクールで入賞したのですね。私も読みました。あなたと物語のことを話したり、国語の勉強を一緒にやるのをとても楽しみにしています」

「飼育委員をとてもしっかりやったのですね。ウサギ小屋がいつもきれいなのは、あなたがいつも気にかけてお世話をしているからかな。動物の事いろいろおしえてくださいね」

こんな風に、ひとり一人を思い浮かべたり、想像したりしながら書きました。そしてこの短い手紙のカードと一緒にアンケート用紙を用意し、それらを封筒に入れ、表にひとり一人の名前を書きました。

実はこのアンケートの中身がポイントでした。ここに「みんなの作ってきたクラスを私も大切にするよ、あなたのことがとても知りたい」という気持ちを込めたのです。

  • 今のクラスの好きなところ(自慢に思うこと、良いところ)を教えてください。
  • 今のクラスでしていること、決まりなどで、これからも続けていきたいことを教えてください。
  • あなたが、担任の私に、教えておきたいこと、今の心配や悩んでいることで知らせておきたいこと等、あなたのことをできるだけたくさん教えてください。

アンケートの質問は、この三点です。

以下は、その新しいクラスとの校庭で“わずか30分”の出会いのシーンです。

「始めまして。よろしくお願いします。顔を知っている人も少しいるけど、今日は、皆さんの担任になれた記念日です。でも、ここで皆さんと過ごす時間は30分、もう、30分ありませんね。本当は、今日はゆっくり皆さんと出会いたかったのに残念です。でも、これから1年間、一緒に過ごせるのですから、今日はしかたないですね」

「長いお話はできないし、外でよく聞こえないと思いますので、皆さんにお手紙を書いてきました。家で、あるいは入学式のお手伝いが終わったら、ゆっくり読んで、私からのアンケートを書いてください。今日は、名前を呼ばれたら、大きな声で返事をして、私と握手して封筒を受け取ったら、入学式のお手伝いの場所に行ってください。ひとり一人どんな手をしているか、手から今日の皆さんを知りたいと思います。今日やることでわからないことがなければ・・・、始めますがいいですか?」

2,3の質問を受けて、私は子どもたちの名前を呼び始めました。

「会田直子さん。優しい手ですね。今日は、元気がないのかな? ハイ、お手紙です」

「石橋洋子さん。いたた! 力持ちですね。それにおちゃめなんだ。お手紙です」
・・・・・・・・(こうして、次が最後の児童に)

「渡辺、雄さん。お待たせしました。暖かくて思いやりがありそう。優しく握手してくれてありがとう。入学式は、2組の誘導係ね。よろしく」(名前は、仮称)

6年生でも、照れながら握手してくれる子どもたちは、かわいいです。洗ってない手、荒れた手、握手を楽しむ手、いろんな手が、私を子どもたちへと近づけてくれました。そして何か問題が起きた時、この日に渡したアンケートが、子どもの心を拓くきっかけをたくさん提供してくれました。


印象に残る出会い、それは、互いの信頼への出発点であるかもしれません。

教師と子ども、どんなに短時間でも、そこに意味をもたせることは、学級経営上とても大切なことだと、つくづく思うのです。

プロフィール

丹伊田弓子(にいだゆみこ)先生
元川口短期大学こども学科教授
東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師

東京学芸大学・同大学院卒。東京都の公立小学校教諭として勤務し、生活科カリキュラムの制定に携わる。2012年3月、川口短期大学教授を退任。現在、東京学芸大学・川口短期大学非常勤講師。日々、教職を目指す学生の指導にあたる。

「塾と学校とでは役割は異なりますが、子どもの学びという現場では、塾も学校も同じ。先生の役割も責任も同じだと私は思っています。小学校の教師として34年、その後大学教師としてたくさんの子どもたちに接してきました。その経験を通して学校の先生は子どもとどう向き合っているのかを感じていただき日々の指導の参考にしていただければと願っています。」

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