塾業界コラム

一流講師の条件とは<私塾界調べ>

「教育資金贈与の非課税」は塾に追い風となるか

「孫への教育資金は1500万円まで非課税」――先般、自公両党が発表した「2013年度税制改正大綱」に盛り込まれた措置です。この決定を受けて学習塾関連の株価が軒並み上昇するなど、業界にはプラスであるとの見方が強まりました。しかし一方で、あまり効果はないとの意見もあるようです。この税制改正をふまえて塾が取れる対応とは何か、山田社長が語ります。

眠っている個人金融資産を若い世代へ

この制度は、祖父母から30歳未満の孫へ教育資金を一括贈与すれば、孫一人につき1500万円(仮に孫が3人いれば1500万×3人=4500万円、4人なら6000万円)までは贈与税非課税とするものです。仕組みとしては、まず信託銀行などの金融機関にその資金を預けます。そして、孫自身や両親がそこからお金を引き出して教育費として使うぶんには贈与税がかかりませんよ、というもので、2013年4月1日~2015年12月31日までの時限立法となっています。

そもそもの目的は、当然ながら消費の活性化でした。現在、個人金融資産の60%以上は高齢者(60歳以上)が保有していると言われますが、この資産を若い世代に移転させて教育費として使ってもらおうという狙いですね。

ポイントは「一括贈与」という点でしょう。これまでも、塾の月謝や学校の入学金など、その都度贈与するぶんには非課税でした。しかし、一括贈与となれば話は別。仮に現行制度下で400万円を贈与したなら33.5万円、今回の非課税上限額1500万円だと、なんと470万円もの贈与税を収めねばならないのです(表1)

■表1 贈与税の計算

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1000万円以下 40% 125万円
1000万円超 50% 225万円
(例)400万円を贈与した場合(赤字部分参照)
400万円-110万円(基礎控除)=290万円
290万円×15%-10万円=33.5万円

教育への投資活性化でデフレ脱却を狙う

祖父母としては、そんなことなら必要に応じて小分けに贈与し続けたいところですが、もし途中で自分が死んでしまってはそれまで。せっかく遺した資産も今度は相続税として持って行かれます。まさに板挟み状態です。

しかしこの制度下ならば、かわいい孫の教育のため、心おきなくお金を渡せますよね。親世代も、まとまった教育資金が確保できれば、安心して他の消費にお金を回せるでしょう。これにより資産の世代間移転が進み、市場にお金が流れ、結果としてデフレ脱却に効果があると見込んだのです。

単なる節税対策に利用され、教育費へと回らない危険性

ただ、懸念される問題がないわけではありません。これは現制度下も同様ですが、贈与された資産を実際に使用する場合、それが教育用途に使われたことを示す領収書の類を金融機関に提出しなくてはいけないのです。しかも、この「教育用途」の定義がまだ詰め切れていないうえ、仮にそれが定まったとしても金融機関がそのすべてを完全にチェックできるかと言えば、実質上はかなり難しいでしょう。つまり「ザル」になる可能性があるのです。

すると、単に資産家の「課税逃れ」に利用される危険性があります。また、その資金を管理するのは実際には親ですから、彼らが教育用途以外のことに使用しないとも限りません。もしかしたら、そのまま貯蓄するだけに終わることも考えられます。これでは「教育のために」という名目は成り立たないでしょう。

加えて、高齢者の資産の多くは、老後の生活不安に対する備えです。一部の超富裕層を除き、いくら高齢者が「貯め込んでいる」と言っても、そうやすやすと孫の教育費にポンと大金を出すことはできません。それならば、今までと同様、その都度小分けに援助していたほうがよほど合理的な判断ということにならないでしょうか。

教育格差を促進させてしまう可能性も?

中でも、教育に携わる者として最も考えたいのは、この制度が教育格差を助長するのではないかということです。仮のこの制度がうまく機能したとして、それを活かせるほどの資産を所有しない極めて一般的な、もしくは貧しい家庭の子どもはどうなるのでしょうか。経済力がある家庭との教育の差は開くばかりです。

かねてから問題視されているように、わが国では、親の経済力がそのまま子ども達が受けられる教育の質に直結している現状があります。お金持ちの子は、質の高い教育を受けて同じくお金持ちとなる。貧しい家庭の子は、満足な教育が受けられず貧困を脱却できない。いわゆる経済格差が教育格差となり、それが連鎖するという負のスパイラルです。今回の税制は、これをさらに加速させるのではないかという意見も少なくないのです。

本来、私たち民間教育機関が目指してきたもののひとつに、こういった教育格差の是正がありました。「すべての子ども達に、等しく教育のチャンスを」という誇り高い理念と義憤を抱き、その出自や経済力に関わらず「人」を育てて来たのが私塾の原点だったはず。そう考えると、単にビジネス視点で「塾業界にお金が落ちてくるかも!?」と喜んでばかりもいられないのではないか、そんな気がするのです。

税制の恩恵を受けられない層にこそ、塾市場の光明があるのではないか

そこで深く関係してくるのが、今年8月からの生活保護基準の引き下げです。不正受給問題や、生活保護費が財政を圧迫している現状を考えると、引き下げはやむを得ないのかもしれません。しかしこれは、就学・就園の補助の減額にも繋がります。奨学金貸し付けや授業料の減免を、生活保護基準と連動させている自治体もあるためです。ですから、このまま単純に基準を引き下げたのでは、経済力による教育格差は広がるばかりでしょう。

下村文科相は「生活保護基準を引き下げても、就学援助の支給水準は下がらない仕組みを作らないといけない」と述べていますが、生活保護を受けられない家庭そのものが増えることは事実。するとその家計の問題は、間違いなく家庭教育・学校外教育費の節約という形で影響するでしょう。しかし、だからこそ塾は、ここに目を向けてはどうかと思うのです。

新税制により優遇される一部の富裕層の子どもたちだけでなく、「それ以外」の一般家庭・貧困家庭の子どもたちに、どうすれば等しく教育を届けられるか。むしろ、ここにこそビジネスチャンスがあるように感じます。教育バウチャー制度の民間教育への拡充などと絡めて考えると、さらにその可能性は広がるでしょう。「取り込む」という言い方は不適切かもしれませんが、塾はこの層を置き去りにしないでほしいと思うのです。

文責:私塾界/全国私塾情報センター 代表取締役社長 山田未知之

プロフィール

山田未知之(やまだみちゆき)

私塾界/全国私塾情報センター 代表取締役社長

1977年、埼玉県生まれ。30年超の歴史を誇る塾業界のトップ専門誌『月刊私塾界』を発行する、株式会社私塾界/全国私塾情報センターの代表取締役社長。同誌を創刊した亡父・山田雄司氏の遺志を継ぎ、2012年10月より現職。民間教育のあり方や業界への想い熱く、全国約2,000社の学習塾のサポート役として、経営情報の提供や研修・セミナーを開催している。

全国私塾情報センターオフィシャルサイト http://www.shijyukukai.jp/

これまでの記事

  1. 学研塾ホールディングス
  2. トップメニュー
  3. 講師憲章
  4. 学研・塾講師検定
  5. CSR活動
  6. お知らせ

コラム

学研塾HDグループ・トピックス

早稲田スクール

9/17:中3対象の「第2回共通テスト対策特訓」スタート

あすなろ学院

9/16、23:数英理社、入試対策実戦ゼミ体験会=毎年的中多数の入試予想問題演習と解説講座を体験

学習塾イング

「中3生対象 志望校突破ゼミ9月スタート!」土日を中心に「実力テスト対策」「入試対策」のゼミを開講。(ゼミのみ受講も可能)

早稲田スクール

9/10:小6受験生対象の「絶対合格特訓シリーズJr」スタート

学習塾イング

「イング美原校リニューアルOPEN!」9月新入生、リニューアル特典。入学金免除&9月授業料・学習支援費:50%OFF(先着10名様限定)

あすなろ学院

9/1〜30:ドリスタ7。定期テスト対策はこれでばっちり。7大イベントに参加で成績UP&景品GET!

全教研

8/24〜26:エコアドロケット・種子島

全教研

8/19〜23:小4〜中3夏期合宿(小4小5中1中2は8/22まで)

全教研

8/18:中学生特待選抜テスト

全教研

8/7〜11:高3夏期合宿

ページトップへ戻る